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ADVENTURE

冬のハクトウワシ

スワード 2010.12

 

20分待っても風が吹かない。右の人差し指は、いちど暖めなおす必要がありそうだ。

 

足下から広がる湖沼には、カワアイサのつがいが魚を探している。右のほうの対岸には一羽のアメリカヤマセミが、木の間を行ったり来たりしている。このヤマセミは、もう2回うまく魚をつかまえた。アラスカには冬も南下せずに暮らす留鳥もたくさんいる。カメラが向く方向には、トウヒの木にとまる一羽のハクトウワシがいる。20メートルの高さから、まだ凍らない池のなかをのぞき込んでいる。

 

 

ハクトウワシが飛んでいるときに広げる初列風切羽、それを大きく広げる姿、そして鋭い眼光、これらを鮮明に写しとることが今回の撮影行の目的だった。撮影行のまえに必ず行う、情報収集としてのイメージ鑑賞は、ほぼ癖になってきている。アラスカ大学の図書館で世界的に有名な写真家、アートウルフの写真集を数多く見つけた。写真を見ていると、自分の中で固定したい動物のイメージが湧いてくる。アートウルフは北米の自然写真に興味をもつ者なら誰でも、彼の作品に触れることになる。ページをめくるたびに、目の前をハクトウワシが飛んでいく。

 

なぜか他の動物の写真を見ているときに、ハクトウワシの飛翔する鮮明なイメージが頭に浮かんだ。情報収集は、だいたいこんな感じで止めておいていい。

 

2009年までは、至近距離でハクトウワシを撮る場合、ホーマーという町が撮影に適していた。それはイーグルレディという愛称を持つ女性、ジーン・キーンが餌付けをしていたため、手の届く距離までワシが寄ってくる場所だったからである。しかし彼女は一昨年(2009)に亡くなり、エサを与える者がいなくなった。この場所は更地となってワシたちは別の場所へ拡散していった。ジーンのおかげでハクトウワシの素晴らしい飛翔のシーンは、既にいくらか撮れていたが、新たに、完全な野生で撮影できる場所を探す必要があった。

 

早速情報収集にとりかかると、すぐに詳しい情報にあたった。場所はアンカレッジから車で2時間半のスワードという町の中にある沼地。ここに限らずアラスカには15000羽ものハクトウワシが安定して生息しており、おおよその場所を特定すれば、あとは地元の観光局や商工会議所に訪ねれば確実だ。それから具体的な計画に入る。期間は三泊と決め、車中泊にした。冬でも開いているロッジは少なくないが、一日5ドルのRVパーク(キャンプができる広い駐車場)が使えれば十分だ。今回は撮影場所が町に隣接した池になるので、食事も簡単にとれる。滞在中は、池、町、駐車場の三角を行き来するだけのシンプルなものにする。

 

スワードに到着すると、空は雪雲で覆われ、粉雪が少し舞っていた。気温はマイナス15℃くらいだろうか。目的の池からは、すでにハクトウワシが二羽確認できる。二羽とも五歳以上の成鳥で、一方は大きいのでツガイだろう。ハクトウワシは一生を同じ相手と共にするといわれているが、冬もずっと一緒に過ごすのだろうか。もし離れるとすれば、また同じ相手に巡り会うのはどのようにするのだろうか。そのあたりを僕はまだ良く知らない。きっといろんな具合があるに違いない。

 

三脚をたてて、ハクトウワシが木にとまるのを待つ。「木から飛び立つ瞬間」が今回鮮明に見えたイメージのひとつだった。そこに4時間いると、どうやらハクトウワシは、30分ほどで別の木へ移るということがわかってきた。ただし強い風が吹くと、揺れる木にとどまれずに飛び立つということになる。これらがひとつの目安になった。

 

ファインダーをのぞいてカメラを向け、シャッターを準備するだけで、あとはワシが飛び立つのを待てばいい。もう撮りたいイメージは決まっていて、そこにピントも合わせてある。しかし、10分もすると指が寒さで痛くなってくる。ただ、リリースの感覚がいつもと違くなるので、指だけは手袋で覆いたくなかった。特にここでは、「瞬間」が大事になる。0.5秒遅れると、画面からハクトウワシのクチバシが出てしまう。手袋をすると間違いなく少しだけ遅れる。その少しがどれくらいの間隔かまだ良くわかっていないので、それならしないほうがましということになる。指を、慣れない左手にかえて、右手をカイロの入ったポケットに入れる。

 

こんなことをしながら何枚か、思う写真にかなり近いものを撮ることができた。

 

それにしても、なぜ「木から飛び立つ瞬間」だったのだろう。それは説明しきれない。言えることはまず、ハクトウワシの特徴ある姿を撮りたかったということ。それから、自分の中でのハクトウワシとはこういう鳥だというイメージに、その瞬間が近いからだということ。動物は動く。動くところどころにその動物の特徴は現れる。クマであれば、サケをとるときに大きく口を開け、牙をむき出す。トナカイであれば、足で雪をかき分けて、地面のコケをたべる。ハクトウワシは、木から飛び立つ瞬間、翼を大きく広げ、滑空する。

 

 

参考資料:Birds of Alaska,  Bald Eagles Their life and behavior in North America, Minden Pictures

協力:スワード観光局