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ADVENTURE

フィヨルド、海のいきものたち

キーナイフィヨルド国立公園 2009.6

 

キーナイ半島は、アラスカの地図の南へ突き出ている。太古の昔より、氷河によって削られてできた、フィヨルドの地形。フィヨルドとは、日本の三陸海岸と同じような、数多くの深い入り江からできた、上空から見ればギザギザした海岸だ。異なるのは、三陸海岸のように山が沈んでできたのではなく、氷河が削ってできた地形をフィヨルドと言う。

今回の撮影行は、クルーズ船に乗っていく5時間のツアー。自分の思うように動物にアプローチできない、このようなツアーには進んで参加はしないのだが、知り合いの計らいにより、無料だったので便乗した。とにかく、今まで見たことのない動物たちを見ることができれば、というなかば旅行気分で臨んだ。

この撮影行の準備としてできることは、クルーズ船のツアー時間帯と、航路を把握しておくこと。ウェブサイトには、わかりやすく地図と一緒にキーナイフィヨルドクルーズツアー(KFC)、5時間と出ている。どうやら動物の出方や天候によって、航路を変更することがあるということで、当日を待つことにした。

 

アンカレッジの町で集合し、バスで3時間ほど、スワードという町が見えてきた。アラスカの栄養豊富な海からとれる海産物で有名だ。撮影には強すぎるといえる夏の日差しで、なかなか構図のイメージが浮かばない。とにかく練習だとおもって、好きなように撮ってみることにした。

 

船が動き出すと、まず始めに現れたのはラッコ。脇から顔を出したかと思うと、船の音に驚いたのか、くるりとまわり海へ潜り込んだ。ラッコはこの時期、海の高級食材、ウニ、ホタテ、カニなどたらふくたべ、昆布に絡まって眠るそうだ。30分もすると、町からレザレクション湾をあとに外洋へ出た。ここの波のうねりはおおきい。

 

 

 

ここまでくると、さまざまな海洋性哺乳類を見ることができた。

 

 

シャチは、アラスカ近海に約400頭ほどいると言われており、高度な母系社会をつくって生活しているという。そのうちの200頭が定住性、すなわち一年を通してアラスカの海に留まる。残りの200頭は、移住性で冬になる前に南の暖かい海へ、家族単位で移動し、いずれも群れで行動するとのこと。船から見られたシャチは、このとき一頭で行動しており、たぶん若いシャチだろうと思った。

 

 

船は慣れた舵手さばきで岩礁に近づける。ここではトドの繁殖地を見ることができた。トドは極北の動物に多い、ハレムをなす動物だ。ハレムとは、一頭の強いオスが、自分の縄張りにメスを誘い込み、周辺にいる全てのメスと交尾をする繁殖の方法。これはトドが生きていくための戦略だ。広大な海で相手をさがすよりも、どこか決められた場所に集まって、短い夏の間に一斉に繁殖をしたほうが、エネルギー消費が少なくてすむ、というトドの生存戦略だ。双眼鏡で、いわばに群れるトドを観察していると、一番強いオスはだれなのかすぐに見当がつく。体が明らかに大きいのだ。

 

 

ツノメドリは、アラスカでも人気の海鳥。ペンギンのようにまるまるとした体をしていて、それでいて飛べる。鳥なのだから飛べて当たり前、と思うかもしれないが、彼らをみたら少し不安になるかもしれない。その翼の小ささと、くちばしの大きさ、極めつけはもちのようなお腹だ。立ち上がっているとわからないが、しゃがみ込んだときに、その贅肉は隠しきれない。一生懸命はねを羽ばたかせて、短い足を大きく広げて飛ぶ、その姿がとてもかわいらしいのも人気の理由だろう。キーナイフィヨルド国立公園には、ツノメドリのきまった繁殖の場があり、こちらも集団で営巣する。高い岸壁に巣があるため、肉眼ではなかなか細かいところまでは見えないが、双眼鏡があれば、つがいでつつきあう姿や、小魚をもち運ぶ姿まで船から見える。

 

海に落ち込む氷河を目の当たりにした後は、同じようにスケールの大きい、ザトウクジラの泳ぎを見ることができた。ブリーチングといった、体を大きく海面から出すような、激しい動きは見られなかったが、尾びれを高くあげて垂直に潜ってくときの姿は、驚異に近い感覚を覚える。目の前を通過するときなどは、こんなものが海にはすんでいるのか、という率直な驚きがある。

 

およそ10種の動物と遭遇できたが、アラスカではこんなにすぐに間近で野生の姿が見られるのだと感動した体験だった。このなかから、ひとつの対象に絞って撮影へ行くとなると、自分で船かカヤックなどを出す必要があるのだろう。僕はいまは陸の動物を中心に、撮影したいと思っているが、いつか海へ対象を広げてみるのも、何かまた新しいアラスカが見えるのかもしれない。そんな想像が膨らんで、僕の頭にある、アラスカの海の地図がより明確になった。